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ぽっけ 短篇 水 1-19

ぽっけ

小さいものが、好きである。
小さければ小さいほど、可愛い。

文房具屋の、米粒みたいな消しゴム。和菓子屋の、練り切りを親指の先ほどにした試食。ドールハウス用の、ちゃんと蓋の開く一センチのジャム瓶。

使い道のないものばかり。
使い道がないから、いい。

先月、雑貨屋の隅で、陶器の兎を見つけた。消しゴムより小さくて、白くて、耳の内側にだけ、うすい桃色が差してある。二つ並んでいたので、二つ買った。
一つは私の机の上に。もう一つは、姉の娘の芽衣にあげた。芽衣は五歳で、私の知っているなかで、いちばん小さい人間である。

*

日曜日、姉の家に呼ばれた。

芽衣は玄関まで走ってきて、私の顔を見るなり、スカートのポケットに手を入れた。
「みて」
握った拳を開くと、あの兎がいた。
「ずっとここにいるの」
ずっと、というのは本当にずっとらしい。幼稚園にも、スーパーにも、歯医者にも、兎は芽衣のポケットに入って出かけていく。服を着替えるたびに、新しいポケットへ引っ越す。ポケットのない服の日は、姉が胸元に安全ピンで小さな巾着を留めてやるのだという。
「大変なのよ、もう」
姉はそう言いながら、ちっとも大変そうではなかった。

夕飯のあいだ、兎は芽衣の皿の横に座っていた。芽衣は時々そっちを向いて、これ、にんじん、と教えてやっていた。兎は、にんじんを食べない。
食べ終わると、芽衣は兎を拾い上げて、またポケットに戻した。上から手のひらで、ぽん、と蓋をした。

その、ぽん、を見ていた。

ポケットの中は、たぶん温かい。暗くて、柔らかくて、芽衣が歩くたびにゆるく揺れる。行き先は選べないけど、選ばなくていい。満員電車も、月曜の朝礼も、返信を待たせているメールもない。にんじんの名前を教えてもらって、終わったら、また仕舞ってもらえる。

帰りの電車で、自分の鞄の外ポケットを、なんとなく覗いた。レシートと、のど飴の包み紙が入っていた。
窓に映った私は、吊り革に掴まって、少し猫背になっている。百六十いくつかの、どこにも仕舞いようのない大きさで。

ああ、私もポッケに入るくらい小さくなりたい。

(了)

初出 note 二〇二六年十月三十一日